議決権行使の行使期限が法令に定める行使期間に1日足りないとして、総会決議の瑕疵が認められた事例を紹介します(乾汽船事件:東京地判令和3年4月8日資料版商事法務448号133頁)。
被告会社は、令和2年6月4日に、同年6月19日に開催される定時株主総会の招集通知、総会関連書類および議決権行使書面を株主に発送しています。招集通知には、当日出席できない株主に対して、同封した議決権行使書面を令和2年6月18日午後5時までに到着するように返送することを求める旨の記載がありました。
会社法は、公開会社については株主総会の2週間前までに招集通知を発しなければならない旨規定し(会社法299条1項)、また議決権行使書面の行使期限については、原則として株主総会の日時の直前の営業時間の終了時であるが(会社法311条1項、同施行規則69条)、取締役会は、招集の決定に際し、特定の時を議決権行使書面の行使期限として定めることができる旨も規定します。もっとも、同期限は、株主総会以前の時であって、招集通知を発した日から2週間を経過した日以後の時に限られます(同法298条1項5号、同施行規則63条3号ロ)。
裁判所の認定によると、被告会社の営業時間の終了時間は午後5時20分であり、被告会社は議決権行使の行使期限を20分短い午後5時をと定めたため、招集通知を発した日(6月4日)から2週間を経過した日以後の時、つまり19日午前零時以後の時を定める必要があり、「議決権行使書面の発送日と総会日との間に15日間を設けなかった令和2年総会の招集手続は、議決権行使書面の行使期限に関する規定に違反する(会社法298条1項5号、同施行規則63条3号ロ)。」と判断されました。
もっとも、特定の時間を定めなかった場合の議決権行使書面の到着期限は午後5時20分で、本件の行使期限、午後5時から20分間伸長されるにすぎず、株主の議決権行使に与える影響が大きいとまではいえないこと、また、令和2年総会の前日の午後5時から同日午後5時20分までの間に到達した議決権行使書面があったことをうかがわせる証拠はなく、上記招集手続の瑕疵は、決議に影響を及ぼさないものであったと認められ、結局株主総会の招集手続の法令違反の事実が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものであると認められるとして、会社法831条2項にもとづき裁量で請求は棄却されました。
招集通知を1日でも早く発送するか、議決行使書面の行使期限を総会の前日の終業時間賭しておけば問題のなかった事案ですが、会社法および会社法施行規則の期限の定めを民法の期間計算の定め(民法138条~143条)に照らして正確に読み込んでおく必要があったという教訓でしょうか。
客員弁護士 片木晴彦
2021年11月15日執筆